| 戦略17分野 ⑯ バイオ医薬品・再生医療等製品等 | 政策実装・官民投資編 2026年05月
JAPAN GROWTH STRATEGY — BIOPHARMACEUTICALS & REGENERATIVE MEDICINE — POLICY MONITOR
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バイオ医薬品・再生医療等製品等
政策実装・官民投資編
官民投資ロードマップ素案(日本成長戦略会議 第3回、2026年3月)構造に基づく政策モニタリングレポート
2040年 売上目標
23.0兆円
我が国企業の売上合計(政策目標として示されている値)
世界医薬品市場
約200兆円
2022年推計。バイオ医薬品・再生・細胞・遺伝子治療等が4割
国内抗体医薬品 海外生産比率
約9割
国内向け販売量のうち海外生産が占める割合
iPS細胞由来製品 承認
2026年2月19日
「リハート」「アムシェプリ」が条件・期限付き承認
CHAPTER 00 政策実装サマリー(2026年04月〜05月)
// ANALYST NOTE
本分野は「医療・経済安全保障」という極めて重い戦略的位置づけを持つ。2026年2月19日、厚労省薬事審議会がiPS細胞由来の再生医療等製品「リハート」「アムシェプリ」(パーキンソン病治療)の条件・期限付き承認を了承し、日本の再生医療技術が臨床応用の新たな段階に進んだ。一方で「我が国の医薬品の自給率は低く、製造工程や周辺産業を含め他国依存度が高くなっている」というロードマップ素案の現状認識通り、国内向け抗体医薬品の約9割が海外生産という構造的脆弱性が残る。富士フイルムの富山CDMO拠点(2026年度稼働予定)など国内製造拠点整備が加速している。
約200兆円
世界医薬品市場(2022年)
バイオ医薬品・再生・細胞・遺伝子治療等の比率は4割を占める(ロードマップ素案)
23.0兆円
2040年売上目標
バイオ医薬品・再生医療等製品等分野での我が国企業の売上(合計)目標(政策目標として示されている値)
2026年2月19日
iPS細胞由来製品承認
厚労省薬事審議会が「リハート」「アムシェプリ」(パーキンソン病治療)の条件・期限付き承認を了承
2026年度
富士フイルム富山CDMO稼働
国内初のCDMO拠点を富山市に新設。デュアルユース設備で抗体医薬品とワクチン生産を両立
直近2ヶ月の重要動向(2026年4〜5月)
// 官の動き
  • 2026年2月19日 :厚労省薬事審議会がiPS細胞由来の再生医療等製品「リハート」「アムシェプリ」の条件・期限付き承認を了承。パーキンソン病(脳のドパミン神経細胞減少による運動障害)治療への応用 内閣府 2026.2
  • 経産省「再生・細胞医療・遺伝子治療製造設備投資支援事業費補助金」(令和6年度補正予算、国庫債務負担行為含め4年間総額383億円):間接補助事業者の採択結果を公表済み 経産省 2025.7
  • 再生医療等製品CDMO企業リスト:FIRM・経産省協力で公開(令和7年4月)・2ヶ月ごと更新。英語版も令和7年9月からリリース 経産省 2025.4
  • 製造関連機器の連結等を含む汎用的な自動化プラットフォームの開発推進。周辺産業(製造装置・原材料細胞等)の実用化研究開発支援を令和8年度より開始予定 内閣府 2026.2
// 民の動き
  • 富士フイルム :国内初のCDMO拠点を富山市に新設決定(2025年10月)、2026年度に稼働予定。抗体医薬品製造とパンデミック時のワクチン生産切替が可能な「デュアルユース」設備を導入 METI Journal
  • 富士フイルム:CDMO事業で約2,000億円の大型投資を決定済み。製造能力でスイス・ロンザ等の世界トップ企業に匹敵する規模を目指す METI Journal
  • FIRM(再生医療イノベーションフォーラム):再生医療分野のSWOT分析を公表(2026年2月3日)。「強み:iPS細胞の世界的研究力・ものづくり基盤」「弱み:スタートアップ投資環境・バイオものづくりの谷(製造ギャップ)」と総括 FIRM 2026.2
重要プレイヤーマップ
機能・分野 主要プレイヤー 政策対象・直近動向
CDMO(受託製造) 富士フイルム、JCRファーマ、AGC、Cellatrix等 富士フイルムが富山に国内初拠点新設(2026年度稼働)。CDMOリストで国内企業の可視化が進行
iPS細胞・再生医療 京都大学iPS細胞研究所、住友ファーマ、その他再生医療ベンチャー 「リハート」「アムシェプリ」が2026年2月に条件・期限付き承認
創薬ベンチャー 各種大学発スタートアップ(遺伝子治療・抗体医薬品等) 米国移転事例(サイアス→Synthekine等)も発生。VC環境の弱さが課題
業界団体 FIRM(再生医療イノベーションフォーラム) CDMOリスト整備・SWOT分析発表(2026年2月)で産業エコシステム形成を主導
研究機関・政府 AMED、経産省生物化学産業課、内閣府健康・医療戦略推進事務局 製造設備投資支援・CDMOマッチング・自動化プラットフォーム開発を推進
CHAPTER 01 1.現状認識と目指す姿【目標】
(1)現状
① 現状:医薬品自給率の低さと「日本発」基盤技術の存在という二面性
// ROADMAP
我が国の医薬品の自給率は低く、製造工程や周辺産業を含め他国依存度が高くなっている。世界の医薬品市場は拡大を続けており、2022年で約200兆円規模と推計され、バイオ医薬品、再生・細胞・遺伝子治療等の比率は4割を占めている。こうした中、世界トップシェアのバイオ医薬品や、ノーベル生理学・医学賞を受賞した基盤技術などが、日本発で生まれている。
// WHY IT MATTERS
「日本発の基盤技術はあるが製造は他国依存」という二面性が、この分野の本質的な政策課題だ。iPS細胞(山中伸弥教授がノーベル賞受賞)という世界的な基盤技術を持ちながら、国内向け抗体医薬品の約9割が海外生産という現実は、「研究では勝っているが製造・産業化では負けている」という日本のバイオ医薬品産業の構造的弱点を象徴している。2026年2月の「リハート」「アムシェプリ」承認は、この基盤技術が臨床実用化フェーズに入った重要な一歩だ。
// 海外動向

米国 個別化遺伝子治療や、遺伝子編集技術を用いた動物の臓器を人に移植する技術(異種移植)が臨床段階に突入するなど、新領域における医療技術が急速に進展している。

中国・アジア 製造体制強化において先行するアジア諸外国は、バイオ医薬品を国家戦略上の重要な分野に位置づけ、イノベーション・生産・輸出に焦点を当てて急速に体制を強化している。


② 経済的・戦略的重要性:医療・経済安全保障としての危機管理投資
// ROADMAP
経済的重要性:ワクチンを含むバイオ医薬品・再生医療等製品等は、国民の健康や命に直結する、医療・経済安全保障上、極めて重要な分野。他国依存の現状を脱却し、感染症危機や海外情勢に左右されることなく、国内供給できる体制を構築する危機管理投資が必要。戦略的重要性:世界の医薬品市場は2022年で約200兆円規模と推計されており、今後も高い成長率が見込まれている。輸入超過・他国依存の構造を転換し、経済成長を牽引する産業とする必要がある。
// WHY IT MATTERS
「危機管理投資」という表現は、新型コロナウイルス感染症パンデミック時にワクチン・治療薬の確保で他国に大きく後れを取った経験への直接的な反省だ。富士フイルムの富山CDMO拠点が「デュアルユース」(平時は抗体医薬品、有事はワクチン生産に切替可能)として設計されているのは、この危機管理投資という性質を最も具体的に反映した投資判断だ。
(2)目標
2040年売上23.0兆円・自国創製・国内製造の確立・CDMOグローバルシェア拡大
// ROADMAP
海外で製造されている国内向けバイオ医薬品について、国内製造拠点による製造を目指す。創薬分野については、国内市場にとどまらず、世界最大の市場である米国をはじめとしたグローバル市場の獲得を目指す。アジアの再生医療等製品等のCDMO市場のシェア獲得を目指す。2040年の我が国企業の売上(合計)目標は、23.0兆円(政策目標として示されている値)。バイオ医薬品の自国創製・国内製造による他国依存度(供給途絶リスク)を低減する。VCや製薬企業をはじめとするグローバルステークホルダーとの連携を強化し、資金やノウハウを呼び込み、創薬分野における国際競争力を高める。
// POLICY MONITOR NOTE
「2040年売上23.0兆円」は⑮バイオものづくり(11.9兆円)の約2倍の規模で、17分野の中でも野心的な目標の一つだ。「アジアの再生医療等製品等のCDMO市場のシェア獲得」という地域戦略は、FIRMが指摘する「アジア市場の成長:北米に次ぐ成長市場としてアジアが急浮上しており、日本はそのハブとなる地政学的な優位性がある」(FIRM、2026年2月3日)という認識と一致する。
CHAPTER 02 2.勝ち筋と官民投資の具体像【道筋】
(1)基本戦略:海外製造から国内製造への切替×iPS細胞/ADC等の技術基盤活用
① 勝ち筋:危機管理投資による国内製造切替×優れた技術基盤での開発・製造受託実績の積み上げ
// ROADMAP
海外で製造されているバイオ医薬品・再生医療等製品等を国内製造へ切り替えることで製造能力の国際競争力を強化し、同時に国内に安定的に供給できる体制を整える危機管理投資により、医療・経済安全保障上のリスクを低減する。iPS細胞のみならず、バイスペシフィック抗体や抗体薬物複合体(ADC)など優れた技術基盤を有する分野において開発・製造受託の実績を積み上げることで国際競争力を強化し、資金と人材の好循環を創出する。承認済みの再生医療等製品を対象とした医療インバウンド・アウトバウンドの促進により資金・人材・情報の好循環を創出する。
// WHY IT MATTERS
「iPS細胞のみならずADC等」という表現が重要だ。iPS細胞は日本の代表的な技術基盤として知られるが、抗体薬物複合体(ADC、抗体に薬剤を結合させた次世代抗がん剤)も日本企業(第一三共のエンハーツ等)が世界的に高い評価を得ている分野だ。「複数の技術基盤での実績を積み上げる」という多角化戦略が、単一技術への依存リスクを下げている。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • 厚労省薬事審議会:iPS細胞由来再生医療等製品「リハート」「アムシェプリ」の条件・期限付き承認(2026年2月19日)。承認後の実績蓄積フェーズへ移行 内閣府 2026.2
  • 経産省・FIRM:再生医療等製品CDMO企業リストの整備(2025年4月公開、2ヶ月ごと更新)。創薬ベンチャーがCDMOと適切に連携できる環境整備 経産省 2025.4
// 民の動き(直近2ヶ月)
  • 富士フイルム:CDMO事業の売上高が2020年度に1,000億円を突破。「2024年度の売上高2,000億円超、その後も年率20%成長」を目標に掲げ、約2,000億円の大型投資を実施済み METI Journal
  • かながわ再生・細胞医療産業化ネットワーク(RINK):川崎市殿町地区を中心に企業・自治体・支援機関が連携し再生医療産業化を推進中 METI Journal
// 海外動向

スイス Lonza等の世界トップCDMO企業が大規模な製造能力を持ち、世界の製薬会社から製造を受託。富士フイルムはこの規模に匹敵する投資を進めている。


② 異種移植等の新領域技術の早期実用化
// ROADMAP
日本が有する高度な技術を、異種移植のような新領域にも応用できる国産技術の確立や製造体制を整備し、早期実用化を図る。
// WHY IT MATTERS
異種移植(遺伝子編集技術を用いた動物の臓器をヒトに移植する技術)は、米国で既に臨床段階に突入している最先端領域だ。日本がこの新領域で「国産技術」を確立できれば、移植用臓器不足という世界的課題への対応で先行できる可能性がある。一方でこの分野は倫理的・規制的な検討も必要であり、技術開発と並行した制度整備が求められる。
(2)官民投資の具体像
// ROADMAP
官民投資を促進する領域:1.バイオ医薬品・再生医療等製品等の国内製造および先端機器を含む周辺産業の強化 2.優れた創薬シーズ・技術基盤の創出・実用化 3.バイオ人材の獲得・育成。投資主体としては、国、製薬企業、VC、CDMO、部素材・周辺機器メーカー等。
// POLICY MONITOR NOTE
定量的インパクト(経済波及効果・関連投資誘発効果)は「官民投資ロードマップ取りまとめまでに提示」と明記。2026年夏の日本成長戦略取りまとめで具体化予定。「先端機器を含む周辺産業」への着目は、内閣府資料が示す「再生医療等製品の市場成長を受け、装置市場だけでも2,400億円規模のグローバル市場になる」という見通しと整合的で、製造装置・原材料細胞等の周辺産業実用化研究開発支援を令和8年度より開始予定だ。
CHAPTER 03 3.課題と政策パッケージ【政策手段】
① 国内投資支援
// ROADMAP
バイオ医薬品・再生医療等製品等の製造に向けた革新的な基盤技術開発、製造・供給体制整備支援。国内製造拠点における製造受託実績獲得に向けた支援。創薬ベンチャーの開発支援。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • 経産省「再生・細胞医療・遺伝子治療製造設備投資支援事業費補助金」(4年間総額383億円):間接補助事業者の採択結果公表済み。CDMO国内拠点整備・製造人材育成を支援 経産省 2025.7
  • 「ワクチン生産体制強化のためのバイオ医薬品製造拠点等整備事業」:富士フイルム含め17件、約2,265億円を採択 METI Journal
// 民の動き(直近2ヶ月)
  • 富士フイルム:富山市に国内初CDMO拠点新設(2026年度稼働予定)。デュアルユース設備により平時の抗体医薬品製造と有事のワクチン生産を両立 METI Journal
② 需要創出・市場確保・社会実装支援
// ROADMAP
バイオ医薬品の国内製造品使用奨励の検討。再生医療等製品等の海外への訴求(インバウンド・アウトバウンドの促進)。医薬品市場の魅力度向上による患者アクセスの改善に向けた、革新的新薬のイノベーションの更なる評価の検討。再生医療などのモダリティ(治療手法)ライフサイクルに配慮した薬事制度の柔軟な運用。創薬ベンチャーのグローバル展開支援。
// WHY IT MATTERS
「再生医療等製品等の海外への訴求(医療インバウンド・アウトバウンド)」は、日本の高度な再生医療技術を「治療を受けに来る外国人患者」と「海外展開する日本企業」の両方向で活用する戦略だ。「リハート」「アムシェプリ」のような承認製品が増えれば、アジア圏からの医療インバウンド需要を喚起できる可能性がある。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • 厚労省:iPS細胞由来再生医療等製品の条件・期限付き承認制度を活用した早期実用化(2026年2月)。承認後のリアルワールドデータ収集を通じた本承認への移行プロセスが今後の焦点 内閣府 2026.2
// 民の動き(直近2ヶ月)
  • FIRM:再生医療分野のSWOT分析公表(2026年2月3日)。「強固なものづくり基盤・薬事承認後の保険償還(患者アクセス)」を強みとして整理 FIRM 2026.2
③ 立地競争力強化
// ROADMAP
継続的なバイオ人材育成。大規模製造拠点での安定生産に向けた製造自動化及び国内サプライチェーンの強化。インバウンド・アウトバウンドの促進による日本の再生医療等製品等の知名度向上。グローバルステークホルダーを呼び込んだ事業開発拠点強化。
// WHY IT MATTERS
「製造自動化」の目的は内閣府資料(2026年2月)が明確に示す通り「必ずしもコストを下げることだけではなく、スケールアップとスケールアウトを効率的に行うこと」だ。バイオ医薬品の製造は細胞という「生き物」を扱うため、富士フイルムの石川副社長が語る通り「理屈では分からないことがまだまだ多く、経験の積み重ねが重要」という暗黙知の要素が大きい。自動化はこの暗黙知をデータとして蓄積・標準化する手段でもある。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • 製造プロセスの自動化・現行製造分析機器の自動化推進。製造関連機器の連結等を含む汎用的な自動化プラットフォームの開発を目指す 内閣府 2026.2
// 民の動き(直近2ヶ月)
  • かながわ再生・細胞医療産業化ネットワーク(RINK):神奈川県・ケイエスピーと企業が連携し川崎市殿町地区で事業開発拠点を強化中 METI Journal
④ 国際連携
// ROADMAP
海外エコシステム、ベンチャー企業・規制当局等との連携。再生医療等に対する信頼の確保。
// WHY IT MATTERS
「再生医療等に対する信頼の確保」という政策パッケージは、再生医療が他の医薬品分野と比較して「新しい治療法への不安・倫理的懸念」を伴いやすい性質を持つことへの対応だ。条件・期限付き承認制度を通じた実績の蓄積と透明性のある情報公開が、患者・医療従事者・社会全体の信頼構築につながる。
📋 続編:課題・政策パッケージ編
「なぜ国内製造への切替が進まないのか」「実績未確立による受注不確実性・大規模製造拠点の維持コスト・希少疾病治療薬市場の限定性という課題」を整理した「課題・政策パッケージ編」も近日公開予定です。
▶ marketsupporter-ai.com で読む
出典
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本レポートは、公開されている政府資料・報道・企業IRをもとに編集した情報提供を目的としたものであり、投資助言・投資推奨を目的とするものではありません。データ基準時点:2026年04月〜05月。